あけぼの123(いちにさん)株式会社は、埼玉県羽生市に本社のある
世界的ブレーキメーカー、曙ブレーキ工業株式会社の特例子会社。
27名の知的障害者社員を中心に本社建物内外の清掃、部品の袋詰め、伝票整理、
設計図面のスキャン業務、名刺印刷などの業務を行っています。
「1・2・3」という社名には、「小さなことから始める」「埼玉で初めての特例子会社」「企業と社会、健常者と障害者が二人三脚で取り組む」という思いが込められているそうです。メーカーの特例子会社ならではの考え方、取り組みなどがきらりと光ります。
現場を見せていただきます。
2003年の設立時から行っている清掃業務です。
トイレ清掃の様子です。
「トイレ掃除が基本」との考え方からすべての障害のある社員さんたちが
取り組みます。
左ページに担当業務表。右ページに作業時間の記入表がはさんであるそう。
エリアを「ハワイ」「サイパン」「グアム」と3つに分けているそうです。
トイレにも動物の名前がついているそう。
ちなみに社長室近くのトイレは「ライオントイレ」だそうです。なんかわかるような気がします。
流し台清掃の作業です。
(障害者社員の)能城さん
「ここは5回、ここは10回とこする回数が決まっていて、数えながらやっています」とのこと。
用具室です。
ラックはハンコの回転ラックを参考にして手作りしたんだそうです。
一人ずつ、道具をひっかける場所が作られています。洗剤の補充台やカートも
すべて手作りだというからすごいです。
掃除道具にも工夫がたくさん見つかります。
力の弱い人は作業しづらく、どこに力を入れ、どこを掃除しているのかが分かりにくいということに配慮しての改善。マジックテープで取っ手をつけて使用します。
水、漂白剤、クリーナーをあらかじめ配合して洗剤液を作り、
そこにモップを浸します。
1枚のモップに湿り具合の差ができるので、
濡れ拭きから乾き拭きまで一気にできる。
他社の取り組みを教わって取り入れたのだそうです。
10分の作業時間短縮ができたそう。
トイレットペーパーの在庫管理。
青いシートが目印になっています。
ここまでなくなったら補充というルール。
2008年からスタートしたブレーキ部品の袋詰め作業です。
決められた種類の部品を決められた数だけ、写真に合わせて袋詰めをしていきます。車検や修理・交換等で使用するブレーキ部品だそうで、袋詰めする部品の種類や点数は車種ごとに異なります。
絶対に間違いがあってはいけません。
2008年4月の業務開始以来、お客様クレームゼロを継続中です。
(12/12現在3521日)なんとすごいことでしょう。
だからといって時間がかかりすぎてもいけません。
袋が開けやすいオープン治具。袋をセットすると両手で部品の投入ができるので、作業の効率がよいのです。
部品種類ごとに部品の写真が。そして部品ごとに置く場所の区切りが
作られています。
こういった工夫が随所になされています。
安全と品質に加えて正確に作業が進められるようになっています。
障害のある社員が、悩まずに繰り返し正確に作業をするための改善を
親会社の社員と一緒に検討していった効果なのだそうです。
社長の山元さん、指導員の岡田さんにお話を伺います。
おおつか:社長に就任される前はどのような部門に?
山元さん:羽生の同じ敷地内にある「モノづくりセンター」という部署で、国内外の社員に「モノづくり」の考え方や講師育成の指導などをしていました。
あらゆるムダを徹底的に排除して、経営トータルの効率を高め、企業体質を強化することを狙っています。
就任直前は、ブレーキ部品の梱包を担当している株式会社アロックスで、あけぼの123の社員の活躍ぶりと苦労している姿を見ていたこともあり、123で働くことを自分から希望した経緯があります。
おおつか:岡田さんは?
岡田さん:親会社で3年間の勤労学生制度後退職し、その後は保育士として働いていたのですが、数年後あけぼの123の設立時に初代社長から手伝ってほしいと誘われました。指導員は現在、私を含めて4名います。
おおつか:清掃や袋詰めなど、さまざまな作業内容を指導されてきたんですね。
岡田さん:直接の指導はもちろんですが、障害のある社員の特性を理解し
働きやすく、生産性が上がる環境を整えることも重要な仕事です。
おおつか:「働きやすい環境」を整える仕事?
岡田さん:その人の能力を見極めて配置を考えたり、手順書(マニュアル)を
整えたりする仕事です。治具の改善、掃除用具の改善、工程の改善なども
常に行います。
おおつか:そうでしたね。部品の袋詰め工程の治具は岡田さんが考えたと
伺いました。
岡田さん:いえいえ、最初は親会社のムダ取り専門部署の皆さんとプロジェクトチームを作って取り組みました。
障害のある社員が「正確に、早く、安全に作業ができるように」の思いで、改善に改善を繰り返しました。
なつかしい思い出ですね。そしてその改善は、親会社の工程の改善にも貢献し、全体で生産効率が向上したんですよ。
山元さん:障害のある人が働きやすい環境というのは、誰にとっても働きやすく能力を発揮しやすい環境だということの証明です。
おおつか:会社設立時、清掃のみだった業務が広がったのは岡田さんをはじめとする指導員の皆さんの改善活動の成果なのですね。
岡田さん:いえいえ、それだけではなくて(笑)。障害のある社員たち、一人ひとりが成長していることのほうが大きいですよ。
おおつか:では、どうやって成長を支えているのでしょうか。
岡田さん:指導員は1日2回、お昼と夕方にミーティングをします。そこで起きていることに早く気づき、共有して対応する事によって、問題を未然に防げたり改善のスピードも上がり、指導員と社員との連携から成長に繋がってくると思います。
山元さん:また、自己申告してもらう毎日の振り返り表を掲示していて、社員は一日の自身の仕事を厳しく振り返り、「ああ、ここがよくなかった」「ここをもっと頑張ろう」とシールを貼っていきます。
山元さん:また、仕事は仕事の能力だけではなく「人として育てる」ことも重要だと考えています。
おおつか:「人として育てる」とは具体的にはどういうことでしょう?
山元さん:働いて生活するためのお金が稼げるような力だけではなく、精神的な自立もさせていくという意味です。
岡田さん:あいさつの仕方、思いやりや感謝の心。自ら考えて行動に移すこと。健康管理、社会のルール、会社のルールを守る。
自分でできることは自分でするけれど、
困ったときには助けを求めることができる。
そういう力を育てていこうと、指導員の間で共有しています。言葉にすると当たり前すぎるのですが(笑)。
おおつか:なるほど。
山元さん:社内イベントや他社見学を実施したり、アビリンピック(障害者技能五輪)に参加したり社外のセミナーで発表したりといった取り組みも、すべて「人として育てる」ための活動です。
おおつか:取材中に出会った障害のある社員の皆さんの礼儀正しさに感銘を受けました。「人として育てる」という方針の意味が、少し理解できた気がします。
最後に、これから障害者雇用に取り組もうと考えている企業に向けて、アドバイスをお願いします。
山元さん:自分たちの会社の強みを生かして、コツコツやっていけば大丈夫だと言いたいです。障害のある社員のための改善は、必ず他の社員にも役立ちますから。
~おおつかのひとりごと~
整然と整えられた道具置き場。障がいのある社員たちのきびきびとした動作。仕事時間の張りつめた空気。そして休憩時間のこぼれんばかりの笑顔。すばらしい職場であることがよくわかります。マニュアル、振り返り、面談、治具。小さな工夫の連続です。けれどもそれだけで3500日を超えるクレームゼロ記録が続くわけがない。山元さんと岡田さんの言葉の行間に「徹底的にやる」「できるまでやる」の精神を感じ、そのことの大切さと大変さに背筋が伸びる思いです。