1年間に1,000件ものイベント開催、400万人もの来場者を誇る、神奈川県のパシフィコ横浜。首都圏に住む人なら、誰もが一度や二度は訪れたことがあるイベント施設の一つです。その有名なパシフィコ横浜の清掃業務で、障害者スタッフが活躍しています。もちろんそんなことは誰も知りません。
パシフィコ横浜の展示場施設。
取材した日もたくさんのイベントが開催されていました。
2014年入社
中村麻衣美さんです。
2013年入社
根本進之助さんです。
2人は展示ホールの清掃担当です。
展示ホールの統括責任者 長尾美里さんです。
長尾さんより、中村さんと根本さんの方がベテランだそうです。
おおつか:障害のあるスタッフを指導するうえでのご苦労はありますか?
長尾さん:苦労らしい苦労は特にありません(笑)。私が入社したときは、障害者スタッフはすっかり一人前になっていてバリバリ仕事してくれていましたので。こちらがうっかり手順を勘違いして、逆に注意されることもあるくらいです。
おおつか:どのように信頼関係をつくったのですか?
長尾さん:仲良くなることを意識しました。彼らをリードしていく立場としては、まず話を聞いてもらわなければならないので。
おおつか:どうやって仲良くなったのですか?
長尾さん:しっかり話を聞きました。上とか下とかではなく、フラットな関係を意識しました。ただ一方的に指示するだけにならないようにしています。
おおつか:うまく指示が伝わっていないなと思う時は?
長尾さん:わかりやすい言葉で言い換えたり、確認したり。それでもうまくいかないときは、周囲の先輩社員に相談し、全体でサポートしてもらって。
展示ホールはA、B、C、Dと4つに区分されています。
その日のイベントによって、清掃時間、清掃場所、清掃方法が変わります。
展示ホールのトイレ清掃作業です。
ごみ回収の仕事
手際よく作業が進みます。
2011年入社の松村康生さん(左)、2011年入社の笹尾亨さん(右)です。
2人は施設の外構部分の清掃を担当しています。
外構部分の清掃の統括責任者 小早川宏朗さんです。
おおつか:障害のあるスタッフと働いてみてどうですか?
小早川さん:障害があるのだから苦手なこともあると思いますが、「障害者だから仕方ない」「障害者だからここまでのレベルでいいよ」ということは言っていません。要求水準は健常のスタッフと同じです。でもそのことに答えてくれると感じています。
おおつか:小早川さんはどうやって障害者の指導方法を学んだのですか?
小早川さん:手探りです。歳が近いから遠慮なくやっています。会社の方針ということではないですが、「仕事中は絶対に敬語を使う」とか「仕事場を出るまでは制服を着替えたあとも仕事をしているつもりで行動に気をつける」など、口をすっぱくして伝えています。
おおつか:難しかったことはありますか?
小早川さん:わからないことはたくさんありました。何度教えてもできないこともあります。でも、しっかりコミュニケーションを取って注意深くみていくと、指導のヒントは見つかる。この繰り返しです。
天候、イベント内容によって段取りや場所が変わるそうです。
取材に伺った日はあいにくの雨でしたので、雨でぬれた展示ホール前、歩行者デッキのフロアワイパーの作業です。
外構のごみ処理の仕事
外部の廊下を履く作業です。
パシフィコ横浜全体の統括責任者 渡邊隆さんです。
渡邊さん:直接の指導担当は、長尾と小早川ですが、ここ(パシフィコ横浜)では、現場スタッフ全員が障害者スタッフをサポートしていると感じます。控え室にはみんなが集まりますので、相談相手になったり、冗談言い合ったり。障害があるとかないとかの意識ではなく、一緒に働く職場の仲間として関わってるんだなあとうれしくなります。
本社営業企画部で障害者雇用を担当している國武勝明さんにお話を伺いました。
おおつか:パシフィコ横浜での障害者雇用の経緯について教えてください。
國武さん:私自身、地域の特別支援学校に清掃指導で伺っていた経験がベースにあったので、パシフィコ横浜の清掃業務の企画提案をするとき、現場で障害者雇用を計画に盛り込みました。大きな現場なので実現できると思って。
おおつか:特別支援学校での経験が生かされたということですね。
おおつか:採用はどのように進められたのですか?
國武さん:まず面接です。お会いして適性がありそうだと思った人に、2週間の実習を2回やってもらいました。
おおつか:その結果は?
國武さん:実習に参加してくれた3人を採用しました。特別支援学校の先生が、こちらの現場に合った生徒さんを推薦してくれたのだと思います。うち1人は異動があり、いまは別の現場で頑張ってくれていますがみんな優秀です。
おおつか:本社担当の國武さんはどんな役割を?
國武さん:障害者スタッフと担当責任者の話し合いの機会を設けて、障害特性について理解を深めてもらうなど、現場からあがってくる疑問や不安の解決に努めています。
おおつか:それは現場スタッフも心強いですね。
國武さん:パシフィコ横浜の現場は6年が経ち、順調といえますが、現場だけ頑張るのではなく、本社もしっかりサポートしていきたいと思っています。
おおつか:これから障害者雇用を進めたいと考えている企業に一言お願いします。
國武さん:この業界では、建物オーナー様への確認と承諾も必要になるので、まずは現場責任者を教育しながら、オーナー様の理解を求めていけるように進めることも重要なポイントだと考えています。障害者を知らないことによる、不安や偏見のようなものもあるかもしれません。現場周囲で、大丈夫だと思ってもらえるような教育がなされれば、すんなりうまく行くのではないかと思っています。
おおつか:まず、現場責任者の考え方がカギということなんですね。
國武さん::まずは体験だけでもいいと思います。われわれの業界は労働力不足だということはわかっているのですから、考え方を変えていかなければなりません。現場の教育が成功すれば、可能性はもっと広がると思っています。
~おおつかのひとりごと~
「清掃現場での障害者雇用を妨げているのは、オーナー(施設の所有者)ではなく、現場周囲の偏見。現場責任者が大丈夫だと思えば、オーナーを説得することもできると思う」とおっしゃる本社営業企画部リーダー長の國武さん。ビルメン業を営む多くの企業から「うちが障害者雇用できないのは、ビルオーナーの反対を取り除けないからだ」と伺っていただけに、おおつか的にも意外な感覚。でも、納得感大です。
訪問先データ
会社名:和光産業株式会社
所在地:神奈川県川崎市川崎区鋼管通1-3-17
従業員数:従業員数365人(うち障害者数:14人)
http://www.wakosangyo.co.jp/
取材地:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)