ビルメンテナンスから設備・工事・システム設計、環境事業など幅広く事業を展開する㈱シービーエス。昨年、同社が特別支援学校から採用した第一期生がビル清掃部門で活躍しています。
その現場、霞ヶ関の超高層ビル、飯野ビルディングを訪問。同社の本社現場担当の森谷敏江さん、飯野ビルディングの現場で指導員を務める山口現さん、第一期生のスタッフ北村中(あたる)さんにお話をお伺いしました。
お伺いした飯野ビルディング。
霞ヶ関駅に直結、地上27階・地下5階建て。
低層階はホールや飲食店、上層階はオフィスが入っています。
27年4月入社の北村中さんです。
お仕事を拝見します。
外周清掃の仕事。
ビルの正面にはさまざまな木々が植えられ、ビルを訪れた人が安らげる空間が広がっています。
テーブルやイスを拭いたり、落ち葉を掃いたり、手際よく清潔を保ちます。
指導担当の山口現さんです。
おおつか:これまで障害のある方と仕事をされたご経験は?
山口さん:いいえ。北村さんが初めてです。
本社現場担当の森谷敏江さんです。
森谷さん:正直言って、最初は不安があったと思います。お客様に迷惑がかるのではないだろうか、周囲のスタッフとうまくいくのだろうかとか。
山口さん:最初はまったくイメージもわかないレベルで、不安はもちろんありました。でも、北村さんが特別支援学校の2~3年生のときに実習生として受け入れて、その経験が不安を取り除いてくれましたね。真面目だし、仕事に一所懸命に打ち込む姿勢がとてもよい印象でした。
おおつか:障害のあるスタッフと一緒に働くというのは、どのような感じですか?
森谷さん:一見して障害があるということがわからないので、逆に苦労もあったと思います。指導側が普通の感覚で接してしまい、なかなか理解が進まないというようなことも。
おおつか:そうなんですか?
山口さん:そういうこともありました(笑)。むしろこの歳になっていろいろ学ばせてもらってありがたいと思っています。言ったことが伝わらないのは相手が悪いのではなく、自分の伝え方の問題なのだから、伝え方を工夫するとか、感情をコントロールして冷静に対応するとか。
おおつか:北村さんの障害に配慮した指導ということですか?
山口さん:う~ん。障害のある人への指導という感覚は持っていません。新卒で入社した若いスタッフには一から教えますよね。仕事はもちろんですが、社会人としての心構えとかビジネスマナーとか。そんな感覚です。
おおつか:御社では障害者採用は中途採用がメインだったそうですが、どのような経緯で、新卒で北村さんを採用されたのですか?
森谷さん:お世話になっている方から「シービーエスも特別支援学校の卒業生を採用してはどうか」と助言され、授業を見学したのがきっかけです。
おおつか:見学してみてどうでしたか?
森谷さん:ものすごくびっくりしました。特に挨拶が素晴らしかった。必ず立ち止まって「こんにちは」と挨拶をしてくれる。清掃の授業にも感動しました。プロの使う資機材を上手に使って立派に作業していて。採用しない理由はないと思いました。
おおつか:御社のたくさんの清掃現場の中から、ここ(飯野ビルディング)を選んだ理由は何ですか?
森谷さん:山口さんをはじめとする現場リーダーたちの人柄です。また、飯野ビルディングさんは快くOKでした。実習の時からきちんと説明していたので。
おおつか:ビルには広いホールや商業フロアもあります。エントランスやエレベーターの清掃中など、利用者のお客様から質問されることもあるのでは?
山口さん:トイレとかコンビニなどの場所を聞かれますが、それは教えられるように訓練をして、どうしてもわからなければ「すみません。わかりません」 と言っていいよと伝えています。
おおつか:質問されて答えられないからエントランスの清掃はさせない、という選択はなかったのですか?
山口さん:なかったです。苦手だと言って避けていたら成長しませんから。
北村さんにお話を伺います。
おおつか:シービーエスに入社した理由は何ですか?
北村さん:人にサービスを提供する仕事に就きたかったんです。清掃の仕事は人に感謝される仕事ですから、とてもやりがいがあります。何カ所か清掃の実習をして、ここ(シービーエス)がいいなと思って入社を決めました。
おおつか:入社して1年4か月経ちましたが、今の気持ちはどんな感じですか?
北村さん:清掃の仕事が向いていないのかと思うこともありましたが、今は天職だと思っています!
おおつか:向いていないとはどういうことですか?
北村さん:自分は、もっといろんなことができるようになれると思っていたのですが、そうじゃなかったので会社を辞めようと思いました。
おおつか:それが天職だと思えたのはなぜですか?
北村さん:山口さんが相談に乗ってくれました。「まだ1年しか経ってないよ。これからいっぱい覚えていけばいいんだ」と励ましてくれました。
山口さん:「石の上にも3年」といって励ましたんです(笑)。北村さん、真面目なんです。若いからいろいろ不安になるんだと思うけど、社会人としても成長していく時期だと思います。
おおつか:好きな仕事は何ですか?
北村さん:雨が降った日にビルのエントランスにレインマットを敷く仕事です。「やった!」という達成感があるので。
森谷さん:そうなんですか?重労働で大変なのに。
山口さん:たいていの人は嫌がる仕事なんですよ。大変だから。
おおつか:北村さんはその仕事が好きなんですか?
北村さん:(笑顔で)そうです!雨が降ってくるとわくわくします!
おおつか:これからの障害者雇用はどのように?
山口さん:とにかく一つひとつ、着実に教えていきたいです。自分も学びです。
森谷さん:新卒採用をさらに進めて、北村さんに後輩をつくってあげたいですね。
~おおつかのひとりごと~
「逆に勉強になることがある」と、指導員を務める山口さん。若い人、いろんな経験を持つ人、それぞれの人の段階に応じて教え方を工夫するということを「この歳になって気づかされる」そうです。いろんな現場を訪問するなか “障害のある人と働くことで、一緒に働くスタッフたちも成長する”というエピソードに頻繁に出会いますが、意外と知られていない。「障害者雇用は人材育成に役立つ」というのは大げさな表現かもしれませんが、やってみると感じていただけるのでは。そう感じていらっしゃるシービーエスさん。北村さんに後輩ができる日も近いだろうなあと思います。
訪問先データ
会社名:株式会社シービーエス
所在地:東京都港区西新橋1-6-15 NS虎ノ門ビル
従業員数:2200人(うち障害者数:21人)
http://www.group-c.co.jp/
取材地:飯野ビルディング(東京都千代田区)