株式会社ビルワークは、窓ガラスや外壁の清掃、ビル・マンションの清掃や設備管理、外壁診断や各種工事など幅広い事業を展開しています。
その中核事業であるガラス清掃の高所作業を行う一員として障害者社員が活躍していると聞き、現場を訪ねました。
取材に伺った現場は、秋葉原駅にほど近い10階建てのビルです。
「あそこで作業中です」 と言われて目を凝らすと…
地上での作業も、通行人の安全に配慮しながら的確に進めていきます。
そのご本人がこちら。原正裕さんです。
特別支援学校を卒業と同時に入社して4年半だそうです。
お仕事の合間にインタビューです。
おおつか:原さんの堂々とした仕事ぶりに感動しました。
原さん:最初は高所作業に足がすくみましたけど、 4年半経ったいまは慣れました。
おおつか:現在の目標は?
原さん:目標は持たないようにしているんです。
おおつか:それはどうして?
原さん:一日一日をがんばるほうが自分に合っている感じで。
おおつか:ビルワークに入社しようと思ったきっかけは何ですか?
原さん:清掃の会社に就職しようと決めていましたが、なかなかぎりぎりまで就職先が決まらず(笑)
おおつか:というと?
原さん:消去法というか(笑)
おおつか:高所作業の仕事がやりたくてビルワークに入社したんじゃなかったんですか?
原さん:あ、はい。
おおつかとしては、「ガラス清掃の仕事にあこがれて入社」という言葉を期待していたのですが、そうではないとのコメントでした(笑)
原さん:入社当初は、本当に苦労しました。障害があることで「あっち」とか「こっち」、「ここらへん」などを理解するのが苦手なんです。でも、そういう苦手さというのは人に伝わりづらいので、上司や先輩にも理解してもらいにくかったです。
おおつか:と言いますと?
原さん:何回も質問したら悪いと思って、自分で判断してやってしまって失敗する。そういうことが何回もありました。「あっちをやって」と言われて、「ここかな?」と思ってやったら違ったり。けっこう言葉がキツい業界なので(笑)、「それぐらい言わなくてもわかるだろ」と叱られました。周囲の人から見たら普通に理解できることが、自分にはできなくて。この仕事、自分には向いてないのかと思ったこともありました。
おおつか:それでどうしたのですか?
原さん:自分で工夫しました。失敗して注意されたら、「申し訳ありません」と謝って、もう一度教えてもらうようにしました。あと、指示されてわからなければ、勇気を出して聞くようにしました。本気でやれば、少しずつでも成長できると、心の片隅で自分を励ましながら…。
おおつか:すごく努力されたんですね。
原さん:(笑)。そのうち、先輩が指示する「あっち」「こっち」「ちょっと」がわかるようになりました。
おおつか:先輩の指示にも「慣れた」んですね(笑)。
原さん:はい。作業が本当に上手な先輩で、ガラス清掃のとき、汚水が全然落ちないんです。かっぱぎ(ワイパーなどで水を集める作業のこと)が完璧で、無駄な動きもなくて。
おおつか:その人のようになりたいと思いますか?
原さん:思います。でも、その先輩から「10年は頑張らなければならない」と言われています。自分は4年なのでまだまだですね。
おおつか:その先輩と一緒の現場になる日もありますか?
原さん:あります。その日はすっごく先輩の仕事を観察します。
おおつか:その先輩から注意されることも?
原さん:ありますが、怒られたと感じたことはないですね。失敗しても「次はこうやって」とアドバイスしてくれる。そうすると、次は絶対うまくやろうとモチベーションが上がります。
おおつか:尊敬できる先輩がいるのは励みになりますね!
原さん:はい!
原さん、再び作業へ。
まずロープをセッティング
お尻を向けて、ブランコに乗りこみます。
そして…するすると降下していく原さんでした。
代表取締役社長の中野英樹さんです。
おおつか:原さんを採用した経緯について教えてください。
中野さん:かねてより障害者を採用したいと求人を出していましたが、なかなか思うように応募がなく、困っていました。そんな折、特別支援学校を見学する機会があり、進路指導の先生から「生徒を実習で受け入れてほしい」との打診がありました。原くんが最初に実習にきてくれた生徒です。
おおつか:実習がご縁だったのですね。
採用担当で事業推進本部長の伊藤好弥さんです。
おおつか:現場の不安はなかったのでしょうか?
伊藤さん:どう接してよいのか、どの程度まで期待できるのかなど、いろいろあったと思います。
おおつか:その不安はどう取り除いたのでしょう?
伊藤さん:進路指導の先生から「今日はAの現場、明日はBの現場と、毎日働く場所や内容が変わるのは厳しい」と聞いていましたので、大きい現場であれば毎日同じ場所で作業ができると判断し、品川の超高層ビルの現場で実習をしてもらいました。正直言って、最初社員たちはおっかなびっくりだったと思いますよ。でも実際に直接関わってみると、それはまったくの取り越し苦労だとわかってくれました。
おおつか:高所の作業は最初から想定していたのですか?障害者社員には、高所など危険な場所の作業は困難だとは思いませんでしたか?
中野さん:担当業務については、本人の希望を尊重したと聞いています。本人がやってみたいというので、それなら指導しようということになって。
おおつか:どうやって指導したのですか?
中野さん:ベテランのスタッフが指導しました。基本は一般のスタッフと同じ教え方です。清掃中の挨拶などはこの人、道具の管理についてはこの人など、それぞれ担当が教えました。
清掃技術は、最初にスクイジーの使い方を覚えてもらうところから始めて。それができれば、ビルの内側のガラス拭きが行えますからね。
伊藤さん:その後、ビルの外側のガラス拭きで、指導者と一緒にゴンドラに乗るところから指導しました。原くんはすごくきちんと仕事をしてくれています。隅もきちんと拭いてくれ、手順を省くようなことはないし、安全対策に関しても完璧です。
中野さん:働くということについての意識が高いと感じます。欠勤や遅刻などは全くありません。若いスタッフのなかには、欠勤の気になる人もいるなかで、とてもありがたい存在です。
おおつか:障害者雇用ということで、一般のスタッフと比べて処遇面での違いを設けていますか?
中野さん:まったく同様の条件です。一人前の仕事をしてくれるスタッフの1人として、正社員として雇用しています。
おおつか:苦労話を伺いたいところですが…。
伊藤さん:あまり苦労していないんですよ(笑)。 でも指導に関しては、見た目では障害があるように思えないので、配慮が十分ではないと心配しています。もっと自分たちが学んでいき、お互い安心して仕事ができる職場にしていきたいと思います。
おおつか:今後のビジョンについてお聞かせください
中野さん:いま特別支援学校の2年生を実習で受け入れています。ご縁があれば再来年、社員として迎えたいですね。多数の障害者の採用は難しいかもしれませんが、入社してくれた人には、戦力として期待するとともに、着実に成長できるようサポートできる会社になっていきたいと思います。
~おおつかのひとりごと~
「リーチ(体が届く範囲)は一人ひとり違うので、(このビルのガラス清掃を)何回降下してガラス清掃を完了させるかは自分で決めなければならない。多ければ時間がかかり、少なければ拭き残しが生じる。高所での作業は、安全管理はもちろん、清掃の技術、道具の使い方、そしてスピードと、すべてにおいて甘えが許されません。その仕事を黙々とこなし、「目標を持たず、一日を一生懸命」と言い切る原さん。誇りがしっかりと感じられました。「障害があるからできることには限界がある」と思い込むことは、企業にとって損なことだと実感。精神論ではなく「やればできる」の証明が原さんでした。
訪問先データ
会社名:株式会社ビルワーク
所在地:東京都台東区浅草橋4-1
従業員数:500人(うち障害者数2人)
www.blwk.co.jp