全国に直営の結婚式場105ヶ所を展開するブライダル業界最大手のテイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)。ハウスウエディングと言われる邸宅風の式場に親戚や友人を招いて行う披露宴のスタイルを始めた企業です。知的障害者のチームが編成され、首都圏5カ所の結婚式場店舗で清掃業務が行われています。
総務人事部担当部長の宮﨑家光さんにお話を伺いました。
おおつか:はじめて障害者を採用したのは?
宮﨑さん:2007年です。12月に6人の知的障害者が入社しました。
おおつか:6人同時入社とは、すごいですね。
宮﨑さん:ベンチャー企業ですから、障害者雇用については社内にまったくノウハウがありませんでした。福祉施設で働いた経験のある人材を同時に採用し、その社員の言う通りに立ち上げていったような感じでした。
おおつか:現在は?
宮﨑さん:22名の障害者が就業しています。そのうち90%は重度障害者です。
おおつか:清掃業務を選んだ理由は何でしょう。
宮﨑さん:ウェディングプランナーやサービススタッフが担当業務の合間に行っていた清掃業務に着目しました。この仕事を障害のあるスタッフたちが担えば、彼ら社員たちは本来の業務にもっと時間を割くことができる。そう直観しました。
おおつか:一言で清掃といってもいろいろあります。結婚式は晴れの舞台です。うっかり汚れが残っていたという失敗は許されませんし、高級な家具や什器もたくさんあって気が抜けません。
宮﨑さん:おっしゃるとおりです。仕事にはとても気を遣います。けれども、リスクを恐れるあまり、本業とは関係のない領域で仕事を作り出すことには抵抗がありました。
おおつか:それはどうしてですか?
宮﨑さん:T&Gでは「One Heart」という理念があります。社員たちがひとつになって価値を作り出していく。そんな世界観に照らして考えれば答えは明確です。簡単ではなくても工夫し努力し、会社やお客様に貢献できる仕事をしてもらうという選択になります。
おおつか:90%が重度障害者ということですが、それにはどんな理由があるのでしょうか。
宮﨑さん:格好をつけた言い方ですが、わが社の仕事は幸せに携わる仕事、幸せを作り出す仕事です。障害が重度といわれる方にも、社会に出て働くチャンスを作らせていただこうという考えです。重度であっても、仕事は立派に行うことができます。習得までに時間がかかる、コミュニケーションに配慮が必要なことも事実ですが、それは我々が勉強していく課題と考えています。
宮﨑さん:式場を利用されるお客様のなかには障害のある方もいらっしゃいます。障害のあるお客様たちにどのようなサービスを行っていくか、また、どのようにサービスを向上させていくかということは重要な経営課題という認識のもと、障害のあるお客様向けの接遇研修をやっています。重度の障害をもった社員たちといかに働くか、いかに付き合っていくかということは、サービスのあり方に向き合うことでもあります
おおつか:すばらしいですね。
宮﨑さん:これらの取り組みは、私一人で進めることができたわけではありません。経営層が応援してくれました。会長(野尻佳孝会長)が社内外向けに発信していたブログで、弊社の理念と障害者雇用の考え方について何回も発信してくれました。それによって、社内の理解も深まりやすかったと思います。
おおつか:作業どのように進めていますか?
宮﨑さん:5ヶ所の店舗(施設)を5人の障害者スタッフと1人のサポートスタッフで編成し、チームに分かれて清掃します。仕事は、1人で1つのポジションを完結させるのではなく、複数の障害者スタッフで手分けして行っていきます。そうすれば1人ひとりスピードや得意なことは異なっても、得意分野を活かすこと、その人ができる作業を担当することで、全体で効率よく仕事を仕上げられます。
仕事の様子を拝見します。
ここが仕事場所の一つ。青山迎賓館のパーティ会場。
テーブルセッティングがされている状態での清掃業務です。
サポートスタッフの古川さんが業務の差配を行います。
床を拭く作業の様子です。
青いマグネット、仕切り棒は仕事を進めやすくするための工夫です。
これで、空間認知に困難のある障害者スタッフでも、どこまでやったか、どこまでやればよいかがわかります。
パーティ会場の清掃を分担して進めます。
古川さんの前職はウェディングプランナー。社内公募で自ら希望されたのだそう。
古川さんから次の作業の指示を受けます。
こうやって、効率よく仕事が進んでいきます。
ロビーの椅子を整える作業
ほこりが溜まりやすい階段の手すりの拭き作業
床の清掃も念入りに。
宮﨑さん:仕事ぶりについては定期的に評価をします。実習の時から使っているアセスメントシートが活躍します。
おおつか:具体的な基準があるのはとてもよいですね。
おおつか:障害者雇用を進めたい企業にアドバイスをお願いします。
宮﨑さん:経営層が協力してくれることはとても追い風になると思います。そのためにはきちんと発信することが大切ですね。障害者雇用の目的や意義、そして障害者はしっかり仕事ができているということ。そうすれば風向きが変わる瞬間が必ず来ます。
~おおつかのひとりごと~
「我々は幸せを創造する会社ですから」と何度も口にする宮﨑さん。T&Gが幸せを創造する対象はお客様のみならず、それを社員、そして社会に対しても向けられていることを感じます。ONE HEARTという理念のもと障害者の職域を決めた。全員で海外にいく社員旅行にも参加した。すばらしいお話を伺いました。実をいうと、一緒に海外旅行にいくことよりも、そのために10回も成田空港に行くための練習をしたという宮﨑さんの本気度に心を打たれたおおつかでした。
訪問先データ
会社名:株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷1-10-3 カタヤマビルB1F
従業員数:2,101人(うち障害者数22人)
http://www.tgn.co.jp/company/index.html